自動車部品

日立Astemo株式会社

2022.11.07

オープンイノベーションで開発量急増に対応できる体制を確立

自動車部品大手として、中核部品を提供する日立Astemo株式会社。同社は自動車メーカーの「CASEシフト」に伴う部品メーカーの役割・責任範囲の拡大に、プログレス・テクノロジーズ(PT)との業務提携で対応しています。開発パートナーにPTを選択した最大の理由は、自社とは異なる領域で活躍してきたことと、新しいことに積極的に取り組む姿勢。多様性をもたらすメンバーとオープンイノベーションを行うことで、従来の固定観念を打ち壊していくことを目指しました。その結果、わずか4年で3倍以上に増大した開発量にも対応することに成功。今後も開発品質向上に向けて、さらなる挑戦を続けていきます。
 

APPROACH

自社の開発者だけでは不可能だった開発上流工程への業務拡大

「100年に一度の変革期」を迎えている自動車業界。電動化や自動化、コネクティッドなどの技術革新が急速に進む中、自動車メーカーは自社の人的リソースを、これらの新技術開発に集中するようになっています。その結果、自動車を構成する膨大なコンポーネントを製造する自動車部品メーカーには、これまで以上に広い役割が期待されるようになりました。そしてこのような「役責の拡大」は、自動車部品メーカーに大きなチャンスとともに、新たなチャレンジももたらす結果になっています。

自動車部品大手であり、自動車メーカーに中核部品を提供する日立Astemoも、その例外ではありません。同社は、モビリティソリューションの提供を通じて持続可能な社会に貢献するため、日立オートモティブシステムズとケーヒン、 ショーワ、日信工業が統合して2021年1月に誕生した企業で、日本を代表する自動車部品メーカーとして、この業界を強力に牽引する存在です。

「私が所属していたケーヒンでも、仕事の境 界線を変更してほしいというお客様との話し合いが、2013年に始まっていました」と語るのは、日立Astemo ソフトウェア事業部シニア・チーフ・エンジニアを務める一瀬久氏です。ケーヒンでは電子化されたコンポーネント間の通信や診断を担うソフトウェアコンポーネントを担当しており、従来は自動車メーカーの詳細設計に合わせて実装・テストを行ってきましたが、この頃から詳細設計も任せたいと言われたのだと振り返ります。「もちろんお客様のご要望にお応えしな れば、私どもの仕事はなくなってしまいます。しかし、そのためには、これまで以上の人的リソースが必要になります」(一瀬氏)

一瀬氏はソフトウェア技術者として業務の見える化に取り組んできた経験もあったため、これによってどれだけ人的負荷が大きくなるのか、はっきり見えていたと話します。その知見から導き出した結論は「自社だけで対応するのは不可能」というものだったと振り返ります。そこで、この問題を解決するためには、自社とともに上流設計に携わってくれるパートナーが不可欠だと一瀬氏は判断。国内シンクタンクの協力のもと、開発パートナーの探索に着手します。まずは展示会/シンポジウムの参加企業や、モデルベース開発サービス提供企業、JASPAR加盟企業などをピックアップしてデータベースを作成。ここにリストアップされた241社の中から、複数の条件で絞り込みを進めていきました。

PTを紹介された時に感じたのは 自社にないケイパビリティとビジョン

「絞り込みをする中で、特に譲れない条件が2つありました。それは『自社と同じ業界ではないこと』と『新しいことに挑戦してくれる会社であること』です」。その理由について「いま思えば『多様性』を求めていたのでしょう」と一瀬氏は語ります。同じ業界のパートナーであれば早期に結果が出せるかもしれませんが、進歩はそこで止まってしまい、さらに先まで行き着くことはできないのではないかと振り返ります。つまり領域を超えたオープンイノベーションによって、これまでの固定観念を壊したいと考えたのです。 これらの条件に従い3社にまで候補を絞り込んだうえで、最終的に一瀬氏が最有力候補にしたのがPTでした。
「PTの紹介資料を見た瞬間に、これは面白い会社だと感じました。当社にはないケイパビリティとビジョンを持っており、積極性も非常に強い。従来のやり方・考え方にとらわれずに、新しい開発に挑戦できるパートナーだと感じました」(一瀬氏)

しかし、この思いは、なかなか上層部からは理解されませんでした。経営会議に上げても「この会社との協業で何をしたいのか理解できない」といった意見が続出したと言います。それでも諦めきれなかった一瀬氏は、シンクタンクの担当者に強く懇願し、2016年6月にPTの担当者と面談。この時、最初に感じた印象は間違いなかったと確信することになります。
「この面談のときに、PTがイベント用に作ったグッズを見せてくれました。それはビールジョッキの下に置くコースターで、センサーとカラーLEDが組み込まれており、ジョッキが空になると色が変わるというものです。つまり店員はその色を見るだけで、ジョッキのビール量が遠くからでもわかるわけです。その発想力の豊かさには 驚かされました」(一瀬氏)

2016年12月には両社のトップ会談が実現。 翌年4月にはPTメンバー6名が参加するパイロットプロジェクトを開始します。その成果が評価され、2017年8月に「パワートレインシステムの開発領域拡大に向けた業務提携」を発表。そして2018年4月にはPTが入居するビルに「台場 R&Dオフィス」を開設し、共同開発チームが本格的に動き出すことになります。
 

日立Astemoと一体となって開発に従事 現場発想で数々の効率化ツールも作成

「ここでは通信・診断モジュール全般の設計と実装を行っています」と語るのは、日立Astemo ソフトウェア事業部 ソフトウェア開発本部 ICEソフトウェア設計部のマネージャーであり、PTとの共同開発チームのリーダーも務める清水敬介氏です。PTのメンバーは日立Astemoのメンバーと一緒になって、日々の開発業務に携わっていると言います。「まずは国内モデル向けのモジュールから着手し、2019年にはグローバルモデル向けの開発を開始しました。車の新モデルは毎年のように発表されていますが、これらが一巡するのには6~7年かかり、現在はまだその途中の段階にあります」
そこで行われている開発量は、PTとの協業を開始した2017年から右肩上がりになっており、わずか4年間で3倍以上に達しています。これだけ急激な開発量の増大に増員だけで対応するのは困難ですが、協業チームはこの仕事量をこなしています。
「その最大の理由は、PTのメンバーが当社と同じ立場、同じ意識で仕事をしてくれるからです」と清水氏は話します。そのために日立Astemo側は、所属会社を超えた「公平」「正直」を徹底していますが、PT側の「日立Astemoと一体化しよう」という強い意識も、生産性を高める重要な要素になっていると指摘します。

役割・責任範囲の拡大による仕事量の変化と開発体制強化の取り組み。

「その一つが、指示もせず、PTが自発的に開発してくれた数々の効率化ツールです。その数はすでに28種類に上りますが、その多くがPT自ら開発現場の発想から生み出してきたものです。例えば2018年に開発した通信系制御仕様のDBは、開発工数全体を50%削減することに成功。また2019年1月には過去の仕様書を3万ものファイルから探しだすツールも作成してくれましたが、これは70秒かかっていたファイル検索を1秒未満で完了し、9割もの工数削減を実現しています」(清水氏)
 

PTとの混成チームがもたらしたオープンイノベーションの大きな成果

2022年8月には、開発拠点を横浜みなとみらいへと移転。現在の人員構成は、日立Astemo: PT比率が1:4で、人数は総勢で50名をゆうに超えています。

「役責の拡大に伴う仕事量の増大に対応できる体制は、すでにPTとの協業によって確立されました」と一瀬氏は話します。PTが作成した各種ツールでもわかるように、異なる領域のパートナーとオープンイノベーションを進めてきた効果も、十分に得られていると語ります。「日立Astemoだけ、あるいは同業のパートナーと組んだ場合には、これだけの成果は挙げられなかったはずです」(一瀬氏)

 

しかし、日立Astemoの挑戦はまだ終わったわけではありません。今後は開発品質のさらなる向上を実現したいと述べます。「今でも忘れられないのが、2016年の最初に出会ったとき、PTの中山社長に言われた『Passion and Speed』という言葉です。私の気持ちは、これで強く後押しされました。これから取り組む品質向上も、この言葉を糧に着実に実現していきたいと考えています」(一瀬氏)

 

左から 日立Astemo(株) 一瀬 久 氏、清水 敬介 氏、プログレス・テクノロジーズ(株) 石黒 隆志

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